2018年に本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたことでも有名な免疫チェックポイント阻害薬。今回はこの薬と腸内細菌の関係についての話です。
人の体には自分自身の正常な細胞を攻撃しないようにブレーキをかける仕組みが備わっており、これを「免疫チェックポイント」と言います。しかし、がん細胞はこの機能を悪用します。がん細胞は自身の表面にPD-L1などの「私は味方です」という信号を出し、攻撃しに来た免疫細胞(T細胞)のスイッチ(PD-1)をオフにして、眠らせてしまうのです。
オプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害薬」は、このがん細胞が出している「偽の信号」や、免疫細胞の「ブレーキスイッチ」をブロックします。これによってがん細胞は免疫細胞にブレーキをかけられなくなり、免疫細胞が、がん細胞を「敵」として正しく認識して攻撃するようになるのです。
それまでの抗がん剤などと異なるタイプの画期的な薬ですが、その薬の効果が得られる人は2割ほどと言われています。そこで国立研究開発法人国立がん研究センター研究所の研究チームが、免疫チェックポイント阻害薬の効果がある人と無い人の腸内フローラを比較したところ、効果のある人は特定の菌を持っていることがわかりました。そして理化学研究所の研究チームが、薬の効果があった人の大便から特定の菌の分離に成功しました。その菌が”YB328”なのです。
YB328を培養して使用したマウス実験により、YB328が免疫の司令塔である樹状細胞を活性化してがん組織まで移動することで免疫効果を発揮するとともに、腸内細菌叢の多様化を通じた樹状細胞のさらなる活性化によって免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性が示唆されました。将来的に、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を高める生菌製剤の開発などが期待されます。
遺伝子解析によって薬の効果に関係する腸内細菌の存在が示唆され、分離・培養によって仮説の立証と応用に繋がっていく。この研究の流れは腸内細菌研究をさらに発展させていくうえで重要な例と考えています。
本研究の詳細は国立研究開発法人国立がん研究センター プレスリリースをご覧ください。
国立研究開発法人国立がん研究センター研究所と理化学研究所の研究チームで実施された本研究は、英国科学雑誌「Nature」に掲載されました。本研究論文は下記URLからご覧いただけます。
タイトル:Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09249-8
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